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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)8590号 判決

原告

井坂久子

ほか二名

被告

平本阿意子(旧姓吉田)

主文

一  被告は原告井坂明美及び同井坂誠に対し、各金三一二万一二二八円及び内金二八二万一二二八円に対する昭和五五年五月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告井坂明美及び同井坂誠のその余の請求並びに原告井坂久子の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを七分し、その六を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告井坂久子に対し金一三八六万〇八〇〇円及び内金一二八六万〇八〇〇円に対する昭和五五年五月一六日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告井坂明美及び同井坂誠に対し、各金一四五〇万円及び内金一三五〇万円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の求めた裁判

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五五年五月一五日午後九時二五分頃

(二) 場所 大阪市城東区関目五丁目五番七号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車(八八大阪え二七二二号、以下「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害者 井坂馨(以下単に「馨」という。)

(五) 態様 被告は、被告車を運転して本件交差点を北東から北西に向け右折進行中、本件交差点北西詰めの横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)を横断中の馨に被告車前部を衝突させ、路上にはね飛ばし、右側頭頂骨々折、脳挫傷等の傷害を負わせ、よつて、前同月一六日午前五時三〇分、大阪市旭区高殿六丁目一四番三号所在の大阪市立城北市民病院において、同人を死亡させたものである。

2  責任原因(運行供用者責任、自賠法三条)

被告は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

3  損害

(一) 馨の損害(死亡による逸失利益) 四五五〇万円

馨は、本件事故当時四七歳の男子で、農林水産省大阪食料事務所に勤務する国家公務員であり、事故前一年間に四五九万九三〇一円の収入を得ていたものであるが、同人の余命は通常二九・一四年を下らず、本件事故に会わなければ満七六・一四歳に達する昭和八四年四月まで生存しえたものであり、この間左記のとおりの収入があつたものである。

(1) 馨は、勤務先の慣例により満六一歳に至る前日まで国家公務員として勤務可能であり、この間前記収入額を下らない収入をあげえたものであるから、本件事故発生の翌月の昭和五五年六月から同人が満六一歳に達する昭和六九年三月までの間の逸失利益の現価は、生活費として収入の三〇パーセントを控除し、ホフマン方式により中間利息を控除すると、左記算式のとおり三三一九万七〇〇〇円を下らない。

(算式)

四五九万九三〇一×(一-〇・三)×{九・八二一一+(一〇÷一二×〇・五八八二)}≒三三一九万七〇〇〇

(2) 馨は、国家公務員を退職後も満六七歳まで就労可能であり、この間退職前の収入額の七〇パーセントを下らない収入をあげえたものであるから、満六一歳に達した翌月である昭和六九年四月から満六七歳に達した昭和七五年三月までの間の逸失利益の現価は、生活費として収入の三〇パーセントを控除し、ホフマン方式により中間利息を控除すると、左記算式のとおり七二〇万四〇〇〇円を下らない。

(算式)

四五九万九三〇一×〇・七×(一-〇・三)×(一三・六一六〇-一〇・四〇九四)≒七二〇万四〇〇〇

(3) 馨は、昭和六九年三月に国家公務員を退職するとすれば、国家公務員共済組合法に基づき同年四月から昭和八四年四月までの間、満六五歳に達する昭和七三年三月までは年額一三三万九二〇〇円、同年四月以降は年額一四三万五二〇〇円の退職年金の支給を受け得たものであるから、これについての逸失利益の現価は生活費として収入の五〇パーセントを控除し、ホフマン方式により中間利息を控除すると、左記算式のとおり五〇九万九〇〇〇円となる。

(算式)

一三三万九二〇〇×(一-〇・五)×(一二・六〇三二-一〇・四〇九四)+一四三万五二〇〇×(一-〇・五)×{(一七・六二九三-一二・六〇三二)+(〇・四〇〇〇×一÷一二)}=五〇九万九〇〇〇

(二) 相続

原告井坂久子(以下「原告久子」という。)は馨の妻、原告井坂明美(以下「原告明美」という。)及び原告井坂誠(以下「原告誠」という。)は馨の子であるが、馨の前記逸失利益相当の損害賠償請求権をそれぞれ法定相続分(各三分の一)に従い、各一五一六万六六六六円宛相続により承継取得した。

(三) 原告ら固有の損害

(1) 葬儀費用(原告久子) 七〇万円

(2) 慰藉料 各五〇〇万円

本件事故により原告らが受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、各五〇〇万円を下るものではない。

(3) 弁護士費用 各一〇〇万円

原告らは、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任しており、被告は右弁護士費用として原告らに対し各一〇〇万円宛賠償すべきである。

4  損害の填補

(一) 原告らは自賠責保険金から二〇〇〇万円の支払を受けたので法定相続分(各三分の一)に従い各六六六万六六六六円宛前記損害に充当する。

(二) また、原告久子は、昭和五五年六月から遺族年金として年額六六万九六〇〇円の二年分一三三万九二〇〇円を既に受給した。

5  よつて、被告に対し、原告久子は損害賠償金一三八六万〇八〇〇円及び弁護士費用を除く内金一二八六万〇八〇〇円に対する本件不法行為の日の後である昭和五五年五月一六日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告明美及び原告誠はそれぞれ損害賠償金一四五〇万円及び内弁護士費用を除く内金一三五〇万円に対する前同日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因1のうち(五)の横断歩道を横断中との点は否認するが、その余の各事実は認める。

2  同2は認めるが、責任を有することを争う。

3  同3の各事実は不知。なお、馨に六一歳以後の逸失利益は存しないが、仮に認められるとしても同年齢の男子の平均賃金により算定すべきである。また慰藉料額は高額すぎる。

4  同4のうち自賠責保険から二〇〇〇万円支払われたことは認めるが、その余は不知。

三  被告の主張

1  過失相殺

本件事故の発生については、馨にも、飲酒のうえ夜間雨の中人通りが全くないところを傘をさして車両の交通量の多い本件交差点の横断歩道外の場所を赤信号を無視して横断したという過失があるから、損害賠償額の算定にあたり八〇パーセント以上過失相殺されるべきである。

2  損害の填補

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、次のとおり合計一三二〇万七六七五円損害の填補がなされている。

(一) 昭和五五年六月一四日、六月期期末勤勉手当 四〇万三七一六円

(二) 同年六月二〇日、弔慰金 二二万四四〇〇円

(三) 同月二五日、退職手当 一二〇一万八六〇七円

(四) 昭和五六年一月三〇日、給与改正に伴う退職手当追給分 五六万〇九五二円

3  請求原因3(一)(3)に対して

仮に馨が、原告ら主張のごとく昭和六九年四月から昭和八四年四月まで退職年金の支給を受け得たとしても、右退職年金を受給するためには、昭和五五年六月から退職時である昭和六九年三月まで総計二二一万八七四六円の国家公務員共済組合長期掛金の支払をしなければならず、右金額は退職年金として得べかりし金額から控除されるべきである。

四  被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張1は争う。

馨は、南北いずれの方向からかは不明だが、本件横断歩道を、右横断歩道の歩行者用信号の青表示に従い横断を開始したところ、南北の車両用信号が青表示の時点(それも黄表示にかわる相当前の時点)で同交差点中央から発進して右折を開始した被告車に衝突されたものである。衝突の時点で右歩行者用信号が赤表示であつたとしても、横断開始後青から赤にかわつたいわゆる信号残りの状態であり、また衝突時被害者は横断歩道上にいたのであるから、馨には何らの過失はなかつたものである。

2  被告の主張2の内、原告らがその主張の金員の支払を受けたことは認める。

しかしながら、(一)は馨の死亡前の労働の対価として、また、(二)は馨の死亡に対し遺族に対する弔慰の趣旨で支給されたものであり、(三)及び(四)については、馨が本件事故により死亡することなく、昭和六九年三月に国家公務員を退職した場合には退職手当として一七八四万四七五〇円の支給を受け得たものであるが、本件死亡による退職に伴い、前記金員の支給があつたものであるから、いずれも損益相殺の対象とはならない。

3  被告の主張3は争う。

仮に被告主張のごとく長期掛金額を控除するとしても、馨死亡時におけるその現価をホフマン方式により中間利息を控除して算定すると左記算式のとおり一六八万一八八〇円にすぎない。

(算式)

〈省略〉

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1の(一)ないし(四)及び(五)の内「横断歩道を横断中」との点を除く事実は、当事者間に争いがない(なお、(五)の事故の態様の詳細については後記四認定のとおりである。)

二  責任原因

1  運行供用者責任

請求原因2の事実は、当事者間に争いがない。従つて、被告は自賠法三条により、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  馨の損害

(一)  死亡による逸失利益

成立に争いのない乙第五号証、原告久子本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第三〇号証、第三一号証の一、二及び弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三二号証の一、二並びに原告久子本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) 馨は、本件事故当時四七歳(昭和八年三月三〇日生)の健康な男子で、農林水産省大阪食料事務所に勤務する国家公務員(行政職(一)五等級)として本件事故発生前に年間四五九万九三〇一円の給与を得ていたが、慣例として満六一歳の誕生日の前日である昭和六九年三月二九日まで国家公務員として勤務可能であつたところ、同人の生活費は右収入の三〇パーセントと考えられる。ところで、馨には後記(3)のとおり退職年金の逸失による損害も認められるが、右退職年金を受給するためには昭和五五年六月から退職時である昭和六九年三月まで左記のとおり長期掛金を支払う必要があるところ、右長期掛金額は昇給と共に増額されるが、本件においては、原告らの請求が馨死亡時の収入に固定して逸失給与額を算定しているものであるから、控除すべき長期掛金額も昇給を考慮せず馨死亡時の給与に対応する一か月当り一万一五五六円に固定すべきであり、右得べかりし給与額から右長期掛金額を控除して、馨の逸失給与額を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり三二一九万六三一二円となる。

(算式)

(四五九万九三〇一-一万一五五六×一二)×(一-〇・三)×{九・八二一一+(一〇÷一二×〇・五八八二)}=三二一九万六三一二

(2) 馨は六一歳に達して国家公務員を退職した後も満六七歳まで就労可能であり、前記のとおり六一歳になるまで国家公務員として在勤していれば昇給していたことなどを勘案すると、六一歳に達して退職後も、少なくとも前記収入額の七〇パーセントを下らない収入を得られたものと推認されるところ、同人の生活費として三〇パーセントを控除し、同人の六一歳から六七歳までの逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり七二二万六五七七円となる。

(算式)

四五九万九三〇一×〇・七×(一-〇・三)×(一三・六一六〇-一〇・四〇九四)=七二二万六五七七

(3) 馨は昭和六九年三月に国家公務員を退職してから死亡時の年齢である四七歳の男子の平均余命期間(厚生省大臣官房統計情報部編昭和五五年度簡易生命表では二九・一四年)である満七六・一四歳に達する昭和八四年四月まで生存したものと推認されるところ、国家公務員共済組合法九二条の三の規定に基づき少なくとも原告ら主張のとおり満六五歳に達する昭和七三年三月までは現に馨の妻である原告久子の受給している額の二倍に当る年額一三三万九二〇〇円、同年四月から昭和八四年四月までは同じく年額一四三万五二〇〇円の退職年金の支給を受けられたものであり(右退職年金受給のため必要な長期掛金の支払については(1)のとおり)、前同様生活費として三〇パーセントを控除し、右逸失利益の現価を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、左記算式のとおり、七一四万〇〇四一円となる。

(算式)

一三三万九二〇〇円×(一-〇・三)×(一二・六〇三二-一〇・四〇九四)+一四三万五二〇〇×(一-〇・三)×{(一七・六二九三-一二・六〇三三)+(一÷一二×〇・四〇八一)}=七一四万〇〇四一

(4) 馨が昭和六九年三月に退職したとすると、退職手当として一七八四万四七五〇円支給されることになるから、右金額につきホフマン方式により年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を算定すると左記算式のとおり一〇四九万六二八一円となる。

(算式)

一七八四万四七五〇×〇・五八八二=一〇四九万六二八一

(二)  相続

原告久子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3(二)の相続の事実を認めることができる。従つて、原告久子、同明美及び同誠は前記逸失利益相当額合計五七〇五万九二一一円の損害賠償請求権を法定相続分(各三分の一)に従い、それぞれ一九〇一万九七三七円宛承継取得したものである。

2  原告ら固有の損害

(一)  葬儀関係費用

原告久子本人尋問の結果によれば、原告久子は馨の葬儀を行ない、その費用として約一四〇万円を要し、墓地関係の費用として約一五〇万円を要したことが認められるが、馨の年齢、家族構成、社会的地位その他諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある損害としての葬儀関係費の額は五〇万円と認められる。

(二)  慰藉料

馨が本件事故によつて死亡したことにより、原告久子は妻として、原告明美及び同誠は子として、それぞれ多大の精神的苦痛を蒙つたことは明らかであるところ、前記認定の諸般の事情を考え合わせると、慰藉料額は、原告ら各自につき四七〇万円とするのが相当と認められる。

四  過失相殺

1  いずれも成立に争いのない甲第八号証ないし第二四号証及び第二八号証並びに被告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

本件事故現場付近は、アスフアルト舗装の五叉路の変形交差点であり、最高速度は時速四〇キロメートルに規制されており、本件事故発生時は降雨のため見通しが悪かつた。被告は、本件事故当日午後六時から午後八時ころまでの間にビールをコツプ二杯位飲んでおり(本件事故後の午後一〇時ころ呼気一リツトル中〇・二ミリグラムのアルコールを身体に保有していた。)、本件事故時は被告車を運転して北東方面から本件交差点に向かつて進行してきたものであり、対面信号が青色表示であつたのでそのまま本件交差点中央部まで進入し、同所で右折のため一旦停止していたところ、対面する南北方向の信号の表示が赤色及び右折青矢印となつたので、西方に右折発進し、時速二五キロメートルまで加速したところ、前方の西側横断歩道上西端付近にいる馨を発見し、急制動するとともに右転把したが及ばず馨に衝突し、本件事故を惹起した。他方馨は、本件事故当日、職場の同僚らと飲食した後帰宅途中、歩行者用信号が赤表示であるのに本件横断歩道を歩行中であつた。

原告らは、「被告の主張に対する答弁1」に記載のとおり、馨は歩行者用信号が青色表示のときに横断を開始しており、仮に衝突時点で歩行者用信号が赤色表示であつたとしてもいわゆる信号残りの状態で被告車と衝突したものであると主張するが、右主張に沿う明確な証拠はない。なお、前掲甲第二三号証によれば、本件事故現場付近で別事件の張り込み捜査中の警察官が、本件事故発生時から一〇秒後に東方から直進車が発進してきたのを認めたとの事実が認められるが、右同号証により認められる本件事故発生時他の通行車両は一台もない状況であつたとの事実に照らすと本件事故発生の一〇秒後に東方から直進してきた右車両が本件交差点東詰めで信号待ち停車をしていて、東西方向の信号が青色になつたのと同時に発進してきたものか否か明らかではないうえ、前掲甲第八号証によれば、本件衝突地点は本件横断歩道北側から約一二メートル、南側から約六・三メートルの地点であるから、馨が時速約四キロメートル(秒速一・一一一一メートル)で横断歩行していたとすると、本件衝突地点まで北側からは約一〇・八秒、南側からは約五・六七秒を要するところ、本件横断歩道の歩行者用の信号の表示が青色から赤色に変わつてから南北方向の車両用の信号表示が赤色右折青矢印になるまで一八秒間あることを考え合わせると、前記認定のとおり馨が本件横断歩道を横断し始めたときの歩行者用の信号は赤色表示であつたと推認されるものであり、他に前記認定を左右する証拠はない。

2  以上認定の事実によれば、被告には被告車を運転して夜間降雨中、本件変形交差点を対面信号赤色右折青矢印の表示に従つて右折進行するに際し、進行方向前方の横断歩道付近の歩行者に十分注意して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、アルコールを身体に保有し、漫然時速二五キロメートルで進行した過失があり、他方馨には本件横断歩道を歩行するに際し、信号の表示に従わず、歩行者用信号の表示が赤色時に横断を開始した過失があり、両者の過失の内容、程度、歩行者と車両間の事故であること、その他本件事故態様等諸般の事情を勘案すると、過失相殺として原告らの損害の六割を減ずるのが相当であると認められる。

そこで原告久子については前記三で認定した二四二一万九七三七円、原告明美及び同誠についてはそれぞれ前記三で認定した二三七一万九七三七円から六割を減じて原告らの各損害額を算出すると、原告久子につき九六八万七八九四円、原告明美及び同誠につき各九四八万七八九四円となる。

五  損害の填補

1  被告の主張2(一)ないし(四)の金員が原告らに支払われたことは当事者間に争いがない。

2  右(一)の昭和五五年六月期期末勤勉手当は馨の生前の労働の対価として、同(二)の弔慰金は馨の死亡につき遺族に対する弔慰の趣旨で支給されたものであると認められるから、いずれも前記損害を填補する性質を有するとはいいがたく、原告らの前記損害額から控除することはできない。

右(三)及び(四)の退職手当及び同追給分合計一二五七万九五五九円については、国家公務員退職手当法一一条により馨の妻原告久子が受給したものであり(右損害の填補の主張に対する原告らの認否はこれに反する趣旨とは解されない。)、右退職手当等の給付額は原告久子の損害賠償債権額から控除することになる(最高裁判所昭和五〇年一〇月二四日判決民集二九巻九号一三七九頁参照)。また、原告久子に対し、国家公務員共済組合から遺族年金として既に一三三万九二〇〇円支払われたことは原告久子の自認するところである。

さらに、原告らに対し自賠責保険から二〇〇〇万円支払われた事実は、当事者間に争いがなく、原告久子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らは法定相続分(各三分の一)に従い、右保険金各六六六万六六六六円宛前記各損害に充当したことが認められる。

3  よつて、原告久子は前記損害額九六八万七八九四円を上まわる補填を受けていることになり、原告明美及び同誠についてはいずれも前記損害額九四八万七八九四円から右填補分六六六万六六六六円を差引くと残損害額は各二八二万一二二八円となる。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、被告に対して本件事故による損害として賠償を求める弁護士費用の額は、原告明美及び同誠は各三〇万円とするのが相当であると認められるが、原告久子については、これを認めることはできない。

七  結論

よつて、被告は原告明美及び同誠に対し、各金三一二万一二二八円及び内弁護士費用を除く二八二万一二二八円に対する本件不法行為の日の後である昭和五五年五月一六日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告明美及び同誠の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、原告明美及び同誠のその余の請求並びに原告久子の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川誠)

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